CISO(最高情報セキュリティ責任者)とは?役割や設置時の課題、キャリアパスについて解説
企業のセキュリティ強化を図るため、CISOの設置を検討している経営者や担当者も多いでしょう。企業ではさまざまな情報やデータを扱うため、情報セキュリティシステムやそのシステムを管理する体制の整備が求められます。ただし、CISOを設置して効果的に運用するには、CISOの役割を正しく把握したうえで導入することが重要です。
本記事では、CISOの概要や業務内容などを解説します。
CISO(最高情報セキュリティ責任者)とは
CISO(シー・アイ・エス・オー)とは、「Chief Information Security Officer」の頭文字からなる略称で、「最高情報セキュリティ責任者」と訳します。企業における情報セキュリティ部門の最高責任者です。
高まるCISOの重要性
CISOが求められる背景として挙げられるのは、企業および社会全体におけるIT環境の充実に比例して、セキュリティインシデントの発生が増加していることです。
インシデントは、自社はもちろん顧客や取引先に被害を与える可能性もあります。そのため、セキュリティ強化やセキュリティインシデントへの対応をするCISOの設置は、企業の責任として求められる時代になってきているのです。
CISOの役割と責任
CISOが担う具体的な役割は、以下の4つが挙げられます。
情報セキュリティ戦略の策定・実行
CISOは、リスク評価に基づき、経営戦略と整合した適切な情報セキュリティ戦略を検討・実行します。また、関係者との連携を強化し、組織全体の意識向上を図ります。
情報セキュリティ体制の構築
情報セキュリティ部門を統括し、体制を構築することも重要な役割の一つです。ポリシーや手順を策定し、運用したり、教育・啓蒙活動を行い、社員の意識向上を図ります。
インシデント対応
まずは事前に、インシデント発生時の対応手順を策定します。万が一、インシデントが発生した際には、迅速かつ適切に対応します。そして、インシデント原因を分析し、再発防止策を検討・実行します。
コンプライアンス遵守
情報セキュリティに関する法令や規制を遵守するだけでなく、定期的な監査を行い、体制の改善を行います。
CISOの具体的な仕事内容
CISOの主な業務内容としては、以下の3つが挙げられます。
自社のシステムやセキュリティなどの現状把握
CISOは、自社のシステムやセキュリティなどの現状を把握して、セキュリティ計画を立案します。例えば、「業務とシステム・データの関連性」「外部関係者一覧」「インシデントへの対応手順」「関連業務規程などのコンプライアンス対応状況」などの把握が必要とされます。現状を把握して立案することで、自社に合ったスムーズな対策や対応へとつなげられます。
セキュリティ対策や運用状況の把握
自社のセキュリティ対策と運用状況の把握もCISOの業務です。例えば、従業員のセキュリティに対する意識確認や、セキュリティ計画がしっかりと実施されているかなどを把握します。また、小さな事件や事故などの把握も重要です。トラブル解決も大切な業務ですが、小さな事件や事故が起こりやすい業務工程の課題を洗い出し、改善することも求められます。
経営層への報告
経営層への報告もCISOの業務です。セキュリティインシデント発生時の報告はもちろんですが、週次、月次、四半期、年間、それぞれの報告も求められます。経営層が自社のセキュリティ計画の現状をタイムリーに把握できれば、予算も立てやすくなります。
CISOに必要なスキル
上記の役割や具体的な仕事内容に対応するために、CISOには、技術面とビジネス面、両面のスキルが求められます。
CISOに必要な技術的なスキル
技術面では、セキュリティインシデントを防ぐための知識やノウハウ、発生時の処理能力や対応力などが必要です。
CISOに必要なビジネス的なスキル
ビジネス面では、プレゼン力やコミニュケーション力、意思決定能力、リーダーシップ、課題発見力などが要求されます。CISOには指示や連絡、報告など、技術的な対応以外の重要業務も少なくありません。技術だけでなく、それを理解できるように伝える能力も必要です。
CISOの設置や運用面での課題
CISO設置の課題として「企業におけるCISOの役割への理解不足」が挙げられます。CISOは本来、情報セキュリティに関連する決定権のある責任者です。しかし、企業によって権限がまちまちで、単にセキュリティ対策をする役割になっているケースも少なくありません。CISOが事業へ効果的に貢献するには、企業がCISOの役割を理解したうえで設置する必要があります。
CISO運用面の課題は、「セキュリティ人材不足」です。前述したように、多くの企業でセキュリティ人材不足が発生しています。CISO設置を効果的にするには、CISOの指示どおりに対応できるCSIRTやSOCが必要ですが、人材不足により運営に影響する可能性も少なくありません。自社に合ったセキュリティ対策のためには自社調達も大切ですが、アウトソースしつつセキュリティ人材を育てることも検討しましょう。
CISOになるには?そのキャリアパスとは
技術面でのキャリアパス
CISOは、情報セキュリティの専門家である必要があります。情報セキュリティ部門やIT部門に所属し、技術的なスキルを伸ばすことが、CISOへのキャリアパスには必要です。
ビジネス面でのキャリアパス
もう一つCISOに必要なキャリアパスとして挙げられるのは、「マネジメント経験」「折衝やリーダーとしての経験」です。CISOは、チームメンバーに指示を出す役割があります。より効率的で効果的なセキュリティ対策や対応にするためには、チームをマネジメントできる能力が必要です。また、情報セキュリティ部門の最高責任者として、メンバーから信頼を得なければなりません。リーダーとしての経験があれば、スムーズに役割を果たせるでしょう。
CISOを設置している企業はどのくらい?
2022年にNRIセキュアテクノロジーズ株式会社が実施したアンケート調査によると、国内でCISOを設置している企業は39.4%でした。他国の設置状況を見ると、アメリカで96.2%、オーストラリアで96.0%となっています。この結果から、国内企業におけるCISO設置率は高いとは言えません。
国内企業でCISO設置率が低い原因として挙げられるのは、セキュリティ人材の不足です。同調査では、国内企業の89.8%で「セキュリティ人材の不足を感じる」という結果が出ています。2012年の調査時も人材不足を感じる企業が84.4%と高い数値にあったことから、ここ10年での改善は見られていません。
ただ、2022年の調査では、セキュリティ対策に関連する予算を増加(または増加予定)した企業が増えています。これにより、セキュリティ対策などの環境整備が進む可能性があります。
関連するIT用語
情報セキュリティ周りでは、CISO以外にも「CIO」「CSIRT」「SOC」といった用語を耳にします。ここでは、CISOとそれぞれの用語との違いを解説します。
CISOとCIOの違いは?
CIO(シー・アイ・オー)は、「Chief Information Officer」の頭文字からなる略称で、「最高情報責任者」を意味します。CIOは企業の情報システム全般の責任を担うという点でCISOと異なります。CIOが企業の情報化戦略や業務効率化を進めることを目的としているのに対し、CISOはIT技術を利用するうえでのセキュリティ管理を目的としています。
CISOとCSIRTの違いは?
CSIRT(シーサート)は、「Computer Security Incident Response Team」の頭文字からなる略称で、「コンピューターセキュリティインシデント対応チーム」を意味します。一般的にCSIRTはCISO直下に配置され、CSIRTが「対処する役割」、CISOが「指示を出す役割」を担っています。平常時にセキュリティインシデントの防止や被害を抑えるための取り組みを行うのもCSIRTの役割です。
CISOとSOCの違いは?
SOC(ソック)は、「Security Operation Center」の頭文字からなる略称で、「セキュリティ・オペレーション・センター」を意味します。SOCの主な役割は、セキュリティインシデントを検知することです。CISOとCSIRTはセキュリティインシデントの防止や発生時の対処、SOCはセキュリティインシデントの検知という役割の違いがあります。
CISOは、企業のセキュリティ強化やセキュリティインシデントへの対応などに欠かせない存在です。IT環境の充実により、セキュリティインシデントの発生が増加しています。
情報漏えいなどを未然に防ぐ対策は当然ですが、企業としてどのような取り組みをしているか社会にアピールすることも重要です。社会的な信用を失わないためにも、CISOを設置して情報セキュリティ対策を進めましょう。