IT初心者からプロの道まで:セキュリティ資格の選び方ロードマップ2025(前編)

はじめに:サイバーセキュリティってどんな仕事?
近年、ランサムウェアや情報漏えいなど、サイバー攻撃による被害が後を絶ちません。特に中小企業は「狙われにくい」と油断される傾向にありますが、実は大企業のサプライチェーン攻撃の足がかりとして標的にされるケースも増えています。こうした背景から、企業規模を問わず「サイバーセキュリティへの取り組み」は避けて通れない時代になりました。
セキュリティと聞くと「専門家だけの領域」と感じるかもしれませんが、実際には現場のIT担当者から経営層まで、それぞれの立場において、サイバーセキュリティへの意識と対応が求められています。とはいえ、「自分にはどこから関わることができるのか」「どのような知識を身につければよいのか」といった点で迷う方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、皆さまの現在地や志向に応じて、今後の学び方やキャリアパスを描くヒントとなるよう、前半と後半に分けて情報を整理してご紹介します。
前半)IT初心者~情シス担当者向けの資格やキャリアパス紹介
後半)セキュリティエンジニアを目指す人向けの資格やキャリアパス紹介
結論:常に頭の中ではキャリアパス(仮)を描くこと
読者のみなさまはこれからITの世界に足を踏み入れようとしている方から既にエンジニアとしてご活躍されている方、さまざまかと思いますが、 IT業界でスキルを磨いていくうえで最も大切なのは、「今の業務の先にどのようなキャリアの可能性があるのか」を、たとえ漠然としていても意識し続けることです。
どの業界にも共通して言えることですが、特にIT業界では、目の前の業務だけにとらわれず、「少し先の自分」をイメージしながら日々取り組む姿勢が、成長に大きくつながります。例えば、「半年後や1年後の自分は、新しく何ができるようになっているのか」ということですね。本記事で紹介している資格情報が、そうした将来像を描くための一助となれば幸いです。
Part1)IT未経験やIT分野に入りたての方へ
これからITの世界に飛び込む方、あるいはキャリアをスタートさせたばかりの方であれば、まずは基礎力の養成が重要です。特にサイバーセキュリティ分野で活躍するには、ITリテラシーと情報の正しい扱い方を身につけることが第一歩となります。
「情シスを兼任しているが、正直よく分からない…」
「急にIT管理を任されたけど、何から手をつけていいか分からない…」
「これからITの世界に挑戦したいけれど、最初の一歩が分からない…」
「部下やチームのメンバーに対して、どのような学習方針を示したらよいかが分からない...」
上記のような悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
どんな分野においても、最初は皆さん初心者ですし、かつては私もそうでした。まずはIT未経験の方が、今、そして今後狙うと良いと思われる資格の紹介をいたします。
※難易度は★が1、☆を0.5として表し、1.0〜5.0 の間で表記いたします。
CompTIA IT Fundamentals(ITF+)(難易度:★)
セキュリティに限定された試験ではないですが、ITの基礎から、インフラ、アプリ開発、ソフトウェア、データベース、セキュリティとIT実務に必要な基盤となる知識を押さえることができます。必ずしもこちらの資格を持っている必要があるというよりは、この資格習得に向けた学習を通して、ITの入口としては申し分ない知識を得ることができます。CompTIA はベンダーフリーの試験であり、海外でも認知度が高い試験となっています(一方、日本では少し知名度は劣る可能性があります)。

ITパスポート試験 (難易度:★☆)
IPA(情報処理推進機構)が提供する、ITの基礎知識を網羅した国家試験です。情報技術の基本概念から情報セキュリティ、ネットワーク、企業経営に関する基礎知識まで幅広く問われることもあり、業界を目指す人にとって入門的に取得するケースが多い資格となっています。「入門」という割には範囲は広いものの、ストラテジー系(戦略)、マネジメント系、テクノロジー系と、包括的な知識を身に着けることができます。IT未経験者は、ITパスポート合格を起点として、更にキャリアを磨いていくことが推奨されます。
基本情報技術者試験 (難易度:★★☆)
同じくIPA(情報処理推進機構)が提供する、プログラミングやアルゴリズムなどの技術寄りのIT基礎力を含む国家資格です。ITパスポート試験より高度で専門的な内容を含んでおり、ITエンジニアとしての基本的スキルを身に付けたい場合や、駆け出しのエンジニアとして、すでにエンジニア業界に身を置いている方であれば、ITパスポートよりもこちらの試験を選んでもよいかもしれません。特に、基本情報技術者試験は、アルゴリズムやプログラミングなどの理論的な内容に重点が置かれている一方、ITF+はより実務的な知識を重視する傾向があります。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CompTIA IT Fundamentals(ITF+) | ★ | CompTIA (米国) | 随時(CBT形式) | 約20,000円 |
ITパスポート試験 | ★☆ | IPA(日本) | 随時(CBT形式) | 7,500円 |
基本情報技術者試験 | ★★☆ | IPA(日本) | 年2回(春・秋) | 7,500円 |
既に何らかのキャリア目標が見えている人へ
情報システム担当の方は、守備範囲がどうしても広くなりがちです。特に「セキュリティ」といっても、アンチウイルス製品の導入等から、ネットワークやクラウドの対応、ガバナンス系の対応等多岐に渡りますね。以下は今後「情シス」を目指す人が取っておきたい共通資格と、ある程度情シスの先に特化したいキャリアスキルの目標が見えている人におススメの資格をご紹介します。
共通スキル系
Microsoft 365 Certified:Fundamentals (難易度:★)
Microsoft 365 Certified:Fundamentals は、Microsoft 365(M365)に含まれる各種アプリケーションやクラウドサービスの全体像を学べる入門資格です。特に、Microsoft Teams、Exchange Online、OneDrive、SharePoint などの実際に業務で利用されるSaaSの理解が中心となっているため、社内のIT環境を運用・管理する情シス担当者にとって非常に実務的な内容となっています。

情報セキュリティマネジメント試験(難易度:★☆)
IPAが提供する国家試験で、セキュリティに関する「テクノロジー」「マネジメント」「ストラテジー」分野を幅広くカバーします。インシデント対応フローやセキュリティ体制の整備など、組織を守るための基本を学ぶことができ、共通キャリア・スキルフレームワークCCSFではレベル2に相当します。

CompTIA Security+(難易度:★★☆)
CompTIA が提供するベンダーに依存しない中立的な資格です。その中でも CompTIA Security+ は、サイバーセキュリティの基礎知識(暗号化、リスク分析、脅威の識別等)を幅広くカバーする国際資格でアメリカや多国籍企業でも広く認知されています。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用 |
---|---|---|---|---|
Microsoft 365 Certified:Fundamentals | ★ | Microsoft | 随時(CBT形式) | 14,520円(地域により差あり) |
情報セキュリティマネジメント試験 | ★☆ | IPA(日本) | 年2回(春・秋) | 7,500円 |
CompTIA Security+ | ★★☆ | CompTIA(米国) | 随時(CBT形式) | 約44.000円(試験バウチャー) |
ネットワーク系を触っていきたい
CompTIA Network+(難易度:★★)
ネットワーク全般の基礎的な部分を網羅的に学習することが可能な資格試験です。設計や運用だけでなく、トラブルシューティングやネットワークセキュリティ、業界標準やネットワークの理論についても学ぶことができます。ネットワークエンジニアや、ペネトレーションテスター、ネットワーク診断士といったセキュリティエンジニアを目指す方にとって、基礎となるネットワーク知識を体系的に習得できるため、取得を推奨します。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CompTIA Network+ | ★★ | CompTIA(米国) | 随時(CBT形式) | 約40,000円 |
クラウド系を触っていきたい
AWS Certified Cloud Practitioner(CLF)(難易度:★)
AWS が提供する資格であり、AWS が提供する各種クラウドサービスの全体像と、基本的なセキュリティ、コスト管理、運用概念を理解するための入門資格です。AWS 認定資格の中で最も基礎的であり、今後クラウドエンジニアを目指す場合、他の上位資格(SAA、SOAなど)へのステップアップへの起点となります。

Microsoft Azure Fundamentals(難易度:★)
Microsoft が提供する資格であり、Azure の基本的なサービスや管理方法、セキュリティとコンプライアンスに関する基礎知識を習得する試験です。Azure 系資格の導入ステップとして、社内IT・営業部門での理解促進にも活用されています。AWS CLF同様、今後クラウドエンジニアを目指す場合の起点となる資格と考えて良いです。

LinuC Level 1(難易度:★)
LinuC は、Linux 技術者認定試験のひとつであり、、「101試験」と「102試験」の2科目に合格することで取得できます。本試験では、クラウド環境で広く使われているLinuxの基本操作やコマンド、ユーザー管理、ファイルシステムの理解などを広く学ぶことができます。AWS や Azure といったクラウド基盤でもLinuxは非常に多く使われており、クラウドエンジニアとしての第一歩を踏み出す上でも、LinuC は非常に実務的な基礎資格といえます。
※101ではファイル操作やコマンドの基本、102ではユーザー管理やネットワーク設定、アカウント管理などが問われます。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
AWS Certified Cloud Practitioner(CLF) | ★ | AWS | 随時(CBT形式) | 約15,000円 |
Microsoft Azure Fundamentals | ★ | Microsoft | 随時(CBT形式) | 約14,250円 |
LinuC Level 1 | ★ | LPI-Japan | 随時(CBT形式) | 16,000円×2 |
Part2)情報セキュリティシステム担当の方へ
ここからは、日々の業務でPCやネットワークの管理、社内システムの運用サポートなどを担当している情シス担当の方に向けてご紹介します。特に「ウイルス対策ソフトの更新」「怪しいメールの社内報告対応」「クラウドサービスの利用制限」など、「セキュリティ」という言葉が業務の中で少しずつ身近なテーマになってきた方にとって、更なる技術の習得とセキュリティ意識の底上げを目的とした資格です。技術やガバナンス等も触れつつ、少し幅広く紹介しております。
共通スキル系
応用情報技術者試験(難易度:★★★)
基本情報技術者試験の上位資格にあたり、ネットワーク、セキュリティ、システム開発、要件定義や設計など、実務に直結する幅広い分野を網羅した国家資格です。特定の技術分野に偏らず、IT全般に関する基礎的な知識を総合的に確認できるため、キャリアの軸を広く捉えたい方や、マネジメント・設計職を目指す方にとっても有効な資格です。

情報処理安全確保支援士試験(難易度:★★★☆)
情報処理安全確保支援士試験(通称:SC)は、情報セキュリティの脅威分析、設計、運用、監査までを広くカバーした国家資格であり、IPAが提供する試験の中でも最上位レベルの専門資格に位置づけられます。セキュリティ分野における実務力とマネジメント視点の両方が求められるため、取得することで社内のセキュリティ責任者やプロジェクトリーダー層としての信頼性を高めることができます。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
応用情報技術者試験 | ★★★ | IPA(日本) | 年2回(春・秋) | 7,500円 |
情報処理安全確保支援士試験(SC) | ★★★☆ | IPA(日本) | 年2回(春・秋) | 7,500円 |
業務でインフラ・ネットワーク系セキュリティに関わる人向け
AWS Certified SAA(難易度:★★☆)
AWS Certified Solutions Architect - Associate(SAA)
AWS を使ったインフラ構成の設計力や、セキュリティ・可用性・コスト最適化といった実務で重視される観点を体系的に学べる中級資格です。よく使われる構成例や設計パターンをもとに、安全性と拡張性を兼ね備えたシステム設計ができる力を証明できる資格です。そのため、クラウドアーキテクトやインフラ系エンジニアを目指す方の登竜門として非常に有効です。

Microsoft Azure Security Engineer(難易度:★★★)
Microsoft Azure Security Engineer(AZ-500)
Azure 環境でのセキュリティ体制構築に特化した実務者向け資格であり、アクセス制御、ネットワークセキュリティ、脅威検出、ログ分析など、クラウド特有のリスクへの対処スキルを幅広く問われます。特に Microsoft 365 や、Azure 製品群を導入している企業においては、セキュリティ運用の中核を担う人材として高く評価される資格の一つです。

LinuC Level 2(難易度:★★★)
LinuC Level 1同様、LPI-Japan が提供する資格試験です。Linux サーバーにおけるマルチユーザー環境、ネットワーク設定、サービスの管理、セキュリティ設計・実装といった中級者向けスキルがカバーされています。Linux に対する理解をより深め、クラウドやインフラ系システムの設計・運用に主体的に関わりたい方にとっては、実務直結の力を証明できる資格と言えます。

CCNA(Cisco Certified Network Associate)(難易度:★★★)
Cisco Systems が提供する、ネットワーク分野の代表的な認定資格です。特にネットワークエンジニアやインフラエンジニアの登竜門的存在として知られており、市場評価では非常に信頼性の高い資格です。セキュリティ分野を目指す方にとっても、基礎となる通信知識を体系的に習得できます。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
AWS Certified Solutions Architect - Associate(SAA) | ★★☆ | AWS | 随時(CBT形式) | 約22,000円 |
Microsoft Azure Security Engineer(AZ-500) | ★★★ | Microsoft | 随時(CBT形式) | 約22,000円 |
LinuC Level 2 | ★★★ | LPI-Japan | 随時(CBT形式) | 16,500円×2 |
CCNA(Cisco Certified Network Associate) | ★★★ | Cisco Systems | 随時(CBT形式) | 約39,600円 |
情シスでも、SOC・セキュリティ運用寄りの業務を行う人
CompTIA CySA+(Cybersecurity Analyst)(難易度:★★☆)
CompTIA が提供する中級レベルのセキュリティ資格であり、EDRやSIEMツールを活用した脅威分析・ログ調査・インシデント対応の力を証明できます。SOCやCSIRTなどのセキュリティ監視業務を目指す方にとって、現場で求められるスキルをバランスよく習得できる実践的な内容が特長です。

Blue Team Level 1(BTL1)(難易度:★★★☆)
Blue Team Certification が提供する、実務に特化したハンズオン型のセキュリティ分析資格です。Windows ログ、Sysmon、SIEM、MITRE ATT&CK などの知識と分析力が求められ、実際に手を動かして検知・対応を行う力を養うことができます。SOCに近い業務が求められる方、セキュリティ運用の即戦力を証明したい方に非常に適した資格です。
※トレーニング込みですが、2025年4月現在399ポンド(約7万5000円)費用がかかります。また国際的に影響力が高い試験ですが、トレーニングや試験は「英語」での対応となります。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CompTIA CySA+(Cybersecurity Analyst) | ★★☆ | CompTIA(米国) | 随時(CBT形式) | 約44,000円 |
Blue Team Level 1(BTL1) | ★★★☆ | Blue Team Certification(英国) | 随時(英語トレーニング+試験) | 約75,000円 |
ガバナンス寄りの業務を行う人
CISA(公認情報システム監査人)(難易度:★★★☆)
情報システムの監査・統制に関する専門資格です。日本ではISACA東京支部があり、公式サイトでは日本語での情報も提供されています。特に、監査部門やマネジメント寄りの業務に関わる方が、より高い信頼性と専門性を示すために有効な資格といえるでしょう。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CISA(公認情報システム監査人) | ★★★☆ | ISACA(国際) | 随時(日本語・英語対応) | 約115,000円 |
キャリアのステップアップ例
A子さんのキャリアステップ例(IT未経験からレッドチーム志望へ)
1年目:ITパスポート試験 合格
社内でのITサポート業務を担当。IT基礎を固める目的で国家資格のITパスポートに挑戦。
2〜3年目:CCNA(Cisco Certified Network Associate)と AWS Certified Solutions Architect - Associate(SAA) 合格
社内のネットワーク敷設業務に携わることもあり、ネットワークの勉強も兼ねてCCNAの受験をすることになり、無事合格。後にクラウド案件に関わるようになり、AWS の基礎とソリューションアーキテクトレベルの知識を習得。クラウド上での設計・セキュリティの重要性に気づき、セキュリティ分野に関心を持ち始める。
4年目:社内セキュリティチームへ異動、情報処理安全確保支援士試験に合格
実務での脆弱性管理やISMS関連業務に従事しながら、情報処理安全確保支援士を取得。
後編に続く・・・
