フェイルオーバー
概要
「フェイルオーバー(Failover)」は、ITやネットワークにおける重要な用語であり、システムの冗長性と可用性を向上させるための機能や手法を指します。フェイルオーバーは、予期しない障害や故障が発生した場合に、システムやサービスを別のバックアップシステムに自動的に切り替えることで、中断やサービスの停止を最小限に抑えることを目的としています。
フェイルオーバーは、以下のような特徴を持っています。
冗長性
フェイルオーバーは、主要なシステムやサービスに冗長なバックアップシステムを用意することで実現されます。バックアップシステムは常に待機状態にあり、本来のシステムが故障した場合に自動的にアクティブになります。
自動切り替え
フェイルオーバーは通常、監視機構や自動化ツールによって監視されます。もし主要なシステムやサービスに障害が発生した場合、監視機構はそれを検知し、自動的にバックアップシステムに切り替えます。この切り替えはユーザーにはほとんど気付かれずに行われます。
高可用性
フェイルオーバーによってシステムの可用性が向上します。障害が発生しても、バックアップシステムが自動的にアクティブになり、サービスの中断を最小限に抑えることができます。これにより、ユーザーへのサービス提供の一貫性が保たれます。
フェイルオーバーは、さまざまなレベルで実現することができます。例えば、サーバーレベルでのフェイルオーバーでは、冗長なサーバーが用意され、障害が発生したサーバーに代わってバックアップサーバーが自動的に処理を引き継ぎます。同様に、データベースやネットワーク機器のレベルでもフェイルオーバーが実現されます。
フェイルオーバーの利点は、サービスの中断を最小限に抑えることができるため、ビジネスの連続性や可用性を確保する上で非常に重要です。システムの故障や障害が発生した場合でも、ユーザーエクスペリエンスやデータの損失を最小限に抑えることができます。
歴史
初期のフェイルオーバー
コンピューターシステムが主に大規模なメインフレームやミニコンピューターで構成されていた時代には、フェイルオーバーの概念は存在していました。故障したシステムをバックアップシステムに切り替えるために、冗長なハードウェアやミラーリング技術が使用されていました。
クラスタリング
1990年代以降、クラスタリング技術がフェイルオーバーの実現に貢献しました。クラスタリングは、複数の独立したコンピューターシステムをグループ化し、共有ストレージやネットワークを介して相互に通信することで高可用性を実現します。一台のシステムが故障した場合、別のシステムが処理を引き継ぎます。
仮想化とハイパーバイザー
仮想化技術の進歩により、フェイルオーバーはさらに進化しました。ハイパーバイザーと呼ばれるソフトウェアレイヤーが導入され、物理的なハードウェア上で複数の仮想マシンを実行することが可能になりました。ハイパーバイザーは、仮想マシンのフェイルオーバーを自動的に制御し、サーバーの障害時に仮想マシンを別のホストに移動させます。
クラウドコンピューティングとオーケストレーション
近年、クラウドコンピューティングの台頭とともに、フェイルオーバーの管理とオーケストレーションが重要な役割を果たしています。クラウドプロバイダーは、グローバルなデータセンターインフラストラクチャを通じて高可用性と冗長性を提供し、ユーザーのアプリケーションやサービスのフェイルオーバーを自動化しています。
類義語・類似サービス
ロードバランシング(Load Balancing)
ロードバランシングは、トラフィックやワークロードを複数のサーバーまたはリソース間で均等に分散する技術です。フェイルオーバーと同様に、システムの可用性と性能を向上させるために使用されますが、フェイルオーバーは主に障害時の回復を重視します。
クラスタリング(Clustering)
クラスタリングは、複数の独立したコンピューターやサーバーをグループ化し、高可用性と負荷分散を実現する技術です。フェイルオーバーはクラスタリングの一部として使用されることがあります。クラスタリングでは、障害が発生した際に他のノードに処理を引き継ぐことで、システムの可用性を確保します。
ディザスタリカバリ(Disaster Recovery)
ディザスタリカバリは、災害や重大な障害が発生した場合に、システムやデータを回復するための計画と手段を指します。フェイルオーバーは一時的な障害に対応するための手段である一方、ディザスタリカバリはより大規模な障害への対応を考慮しています。
クラウドの自動スケーリング
クラウド環境では、リソースの自動スケーリング機能を使用して、需要の変動や障害に対応します。自動スケーリングでは、負荷やトラフィックが増加した場合に自動的に追加のリソースを割り当て、システムのパフォーマンスと可用性を維持します。
対義語
フェイルバック(Failback)
フェイルオーバーが発生した後、元のプライマリシステムが復旧し、処理を再び元のシステムに戻すことを指します。フェイルオーバーとは逆の概念です。
ファシリティ
概要
IT/ネットワーク用語としての「ファシリティ(Facility)」は、広義には施設や設備を指す言葉です。特にITおよびネットワークのコンテキストでは、以下のような意味合いで使用されます。
データセンターファシリティ
データセンターファシリティは、ITインフラストラクチャを保持および運営するための物理的な施設です。これにはサーバールーム、ネットワーク機器、電力供給、冷却システム、セキュリティシステムなどが含まれます。データセンターファシリティは、サーバーやネットワーク機器などの設置、保守、監視を行い、高い可用性とセキュリティを確保します。
ファシリティマネジメント
ファシリティマネジメントは、施設や設備の管理および維持を行うプロセスや活動です。これには、予算編成、施設の設計および配置、設備の保守、安全管理、リソース管理などが含まれます。ファシリティマネジメントは、適切な環境を提供し、ビジネスの目標をサポートするために重要な役割を果たします。
ファシリティサービス
ファシリティサービスは、組織内で提供されるさまざまな支援サービスを指します。これには、施設のメンテナンスや清掃、セキュリティ管理、受付業務、物品管理などが含まれます。ファシリティサービスは、オフィスやワークスペースの効率的な運営と従業員の快適な作業環境の確保に貢献します。
インフラストラクチャファシリティ
インフラストラクチャファシリティは、通信や電力などのインフラストラクチャを提供するための物理的な施設や設備を指します。これには、通信ネットワークの設備、電力供給のインフラ、冷却システム、ケーブルインフラなどが含まれます。インフラストラクチャファシリティは、ネットワーク通信や電力供給の信頼性と効率性を確保する役割を果たします。
歴史
初期のコンピューターシステムでは、施設や設備に関する概念はまだ限られており、主にハードウェアの保管と冷却に重点が置かれていました。1960年代から1970年代にかけて、コンピューターシステムの規模と複雑性が増し、それに伴い施設のニーズも変化しました。大型コンピューターシステムでは、エアコンや電源の安定性など、設備の適切な管理が必要とされました。
1980年代には、パーソナルコンピュータ(PC)の普及に伴い、オフィス環境での施設の役割が重要となりました。これは、オフィススペースのデザイン、ネットワークケーブルの配線、電力供給の確保などを含みます。また、ITサービスのアウトソーシングやクラウドコンピューティングの台頭により、データセンターファシリティの需要も増加しました。
21世紀に入ると、データセンターファシリティの設計と管理がより重要な課題となりました。高密度のサーバーラック、冷却システム、電源バックアップ、セキュリティ対策などが重視されるようになりました。また、持続可能性や環境への影響も考慮されるようになりました。
類義語・類似サービス
インフラストラクチャサービス(Infrastructure as a Service、 IaaS)
IaaSはクラウドコンピューティングの一形態であり、ネットワーク、サーバー、ストレージなどのITインフラストラクチャを仮想的に提供します。ファシリティと同様に、ITインフラストラクチャの提供や管理に焦点を当てています。
データセンター
データセンターは大規模なコンピューターシステムを保管し、運用するための施設です。データセンターは物理的なファシリティを提供し、サーバー、ネットワーク機器、ストレージなどの設置、冷却、電源供給などを管理します。
コロケーションサービス
コロケーションサービスは、複数の顧客が自身のサーバーやネットワーク機器をデータセンターに設置するサービスです。データセンターのファシリティを共有することで、顧客は高速なネットワーク接続やセキュリティ対策などの恩恵を受けることができます。
マネージドサービスプロバイダ(Managed Service Provider、 MSP)
MSPは顧客に対してITインフラストラクチャやネットワークの管理を提供するサービスプロバイダです。MSPは顧客のファシリティの運用や保守、セキュリティ管理などを担当し、顧客は自社リソースを効果的に活用することができます。
サービスレベルアグリーメント(Service Level Agreement、 SLA)
SLAはサービスプロバイダと顧客の間で合意される契約であり、提供されるサービスの品質や性能に関する基準を定めます。ファシリティの提供や運用においても、SLAに基づいた取り決めが行われることがあります。
ファイアウォール
概要
ファイアウォール(Firewall)は、ITおよびネットワークセキュリティにおける重要な用語です。以下にファイアウォールについて詳しく解説します。
ファイアウォールは、コンピューターネットワーク上で通信を監視および制御するためのセキュリティデバイスまたはソフトウェアです。主な目的は、不正なネットワークトラフィックや悪意のあるアクセスからネットワークやコンピューターシステムを保護することです。ファイアウォールは、ネットワーク内外の通信を制御し、許可されたトラフィックのみが通過するようにします。
ファイアウォールは通常、次のような機能を提供します。
パケットフィルタリング(Packet Filtering)
パケットフィルタリングは、ネットワークトラフィックを監視し、事前に設定されたルールに基づいてパケットを許可またはブロックする機能です。ルールは送信元や宛先のIPアドレス、ポート番号、プロトコルなどに基づいて設定されます。
ステートフルインスペクション(Stateful Inspection)
ステートフルインスペクションは、ネットワークトラフィックの状態を監視し、通信の正当性を確認する機能です。送信されるパケットの情報と関連する過去の通信履歴を比較し、正当なトラフィックのみを許可します。
アプリケーションレベルゲートウェイ(Application-level Gateway)
アプリケーションレベルゲートウェイは、特定のアプリケーションプロトコルに対して深いインスペクションを行う機能です。例えば、Webトラフィックの場合、HTTPリクエストやレスポンスの内容を解析し、不正なコンテンツや攻撃を検知します。
仮想プライベートネットワーク(Virtual Private Network、VPN)
ファイアウォールは、セキュリティを強化するためにVPN接続をサポートする場合もあります。VPNは、公衆ネットワーク上で暗号化されたトンネルを確立し、リモートユーザーや分散したオフィスとの安全な通信を実現します。
ファイアウォールは、ネットワークのエッジに配置されることが一般的です。エッジファイアウォールは、企業の内部ネットワークとインターネットの間に配置され、外部からのアクセスを監視・制御します。また、内部ファイアウォールは、企業内のセグメントやセキュアゾーン間の通信を制御するために使用されます。
ファイアウォールは、企業や組織のセキュリティポリシーの一部として重要な役割を果たしています。適切に設定されたファイアウォールは、不正アクセスやマルウェアからネットワークを保護し、セキュリティ脅威からの被害を最小限に抑える効果的なツールです。
最近のファイアウォールには、次世代ファイアウォール(Next-Generation Firewall、NGFW)と呼ばれる進化した形態もあります。NGFWは、従来のファイアウォール機能に加えて、さまざまなセキュリティ機能(例:侵入防御システム、アンチウイルス、Webフィルタリングなど)を統合し、より包括的なセキュリティ対策を提供します。
なお、ファイアウォールはセキュリティ対策の一部ですが、完全なセキュリティを保証するものではありません。セキュリティの観点からは、ファイアウォールに加えて他のセキュリティ技術やポリシーも必要です。
歴史
ファイアウォールの起源は、1980年代初頭に遡ります。当時、ネットワークセキュリティの主要な懸念は、不正なネットワークトラフィックの制御と外部からの不正アクセスの防止でした。初期のファイアウォールは、パケットフィルタリングを実現するためのルールベースのアクセス制御リスト(ACL)を使用しました。これにより、ネットワーク上を流れるパケットを特定の基準に基づいて遮断または許可することが可能となりました。
1980年代後半から1990年代初頭にかけて、サーキットレベルゲートウェイ(Circuit-level gateway)と呼ばれるファイアウォールが登場しました。これは、ネットワーク接続を確立する際に一時的な仮想回線を作成し、通信のコントロールを行うものでした。サーキットレベルゲートウェイは、パケットフィルタリングに加えてセッションレベルの制御を行い、内部ネットワークと外部ネットワークの間の信頼性やセキュリティを向上させることができました。
1990年代中盤になると、ファイアウォールの進化とともにステートフルインスペクション(Stateful inspection)と呼ばれる技術が登場しました。ステートフルインスペクションは、パケットのヘッダー情報だけでなく、パケットの内容やセッションの状態を監視することで、より高度なセキュリティ機能を提供しました。これにより、不正なトラフィックや攻撃をより効果的に検出し、防御することが可能になりました。
近年のファイアウォールは、次世代ファイアウォール(Next-Generation Firewall、NGFW)として知られています。NGFWは、従来のファイアウォールの機能に加えて、アプリケーションレベルの可視性や制御、脅威インテリジェンス、侵入防御システム(IPS)などの機能を統合しています。これにより、より高度なセキュリティ保護が可能になりました。
類義語・類似サービス
IPS(Intrusion Prevention System)
ネットワークセキュリティの分野で使用される技術およびシステムです。IPSは、ネットワーク上の異常なトラフィックや攻撃を検知し、遮断・防御するために設計されています。
DMZ(DeMilitarized Zone)
DMZは、ファイアウォールを使用してセキュリティを強化するためのネットワークセグメントです。企業の内部ネットワークと外部ネットワークの間に配置され、公開サービスや外部からのアクセスが必要なサーバーを配置することで、セキュリティの境界を作ります。
パケットフィルタリング
ファイアウォールの基本的な機能であり、ネットワークトラフィックを監視し、特定のルールに基づいて通信を許可またはブロックする方法です。パケットの送信元・宛先IPアドレス、ポート番号、プロトコルなどを基準にフィルタリングが行われます。
プロキシサーバー
プロキシサーバーは、クライアントとサーバーの間に立ち、クライアントの代わりにサーバーへの通信を行います。この仕組みにより、クライアントのIPアドレスや個人情報を隠すことができます。プロキシサーバーは、ファイアウォールと協調してセキュリティやプライバシーの向上を図ることができます。