ユーザープロビジョニングについて|考え方やアプローチ方法を解説します
ユーザープロビジョニングとは、ID管理などのユーザーアクセス権の管理に関する一連の作業のことを指します。
ユーザープロビジョニングは、コンプライアンス遵守という意味でも無視できない内容のため、正しい知識を持った上での適切な対応が必要です。
〈この記事を読んでわかる内容〉
- ユーザープロビジョニングの基本概念
- ユーザープロビジョニングの具体例
- コンプライアンスに関わるユーザープロビジョニング
ユーザープロビジョニングに関わる基本的な知識や具体的な技術についてお伝えいたします。
なぜユーザープロビジョニングが重要視されるのか
現代の企業の成長には、クラウドサービスの活用が欠かせません。一方で、クラウドサービスのアカウント管理やセキュリティリスクが大きな課題となっています。
複数のクラウドサービスを利用することで、一人のユーザーに複数のアカウントとそのパスワードを管理させているケースも少なくありません。
ユーザー管理の不十分により発生する、セキュリティの課題を解消するべく、ユーザープロビジョニングが重要視されるようになりました。
ユーザープロビジョニングの基本的な考え方
ユーザープロビジョニングの基本的な考え方としては、以下のポイントがあります。
- ユーザー情報同期の自動化
- アクセス管理の徹底
クラウドサービスのアカウントを毎回手動で作成すると、時間と労力が必要になる他、人的ミスによるセキュリティリスクの発生が考えられます。
ユーザープロビジョニングを意識し、ユーザー管理を一元化させることで、このようなミスを減らし、業務効率の向上を図ることが可能になります。
ユーザー情報同期の自動化
ユーザー情報の同期を自動化することは、情報管理において極めて有効です。組織の人事情報システムと統合しながら、新入社員の情報をリアルタイムで自動的に追加し、アクセス権を付与する流れを確立させることで、情報の共有がスムーズになります。
手作業によるエラーなども発生しにくくなるため、運用効率の向上と同時にセキュリティを強化できるメリットもあります。
アクセス管理の徹底
アクセス管理におけるセキュリティにおいて「アイデンティティガバナンス」というコンセプトが重視されています。特定ユーザーのみが強い権限を持ち、それ以外のユーザーは必要以上のアクセス権を持たないようにすることを指します。ユーザーの職務や役割に応じた必要最小限のアクセス権が与えられるよう管理されることが重要です。
不要なアクセス権を制限したり、役割の変更時には権限を変更したりと、アクセス管理は常に最新の状態を保つ必要があります。
自動化のコツについて
ユーザープロビジョニングを自動化すれば、時間と労力が大幅に削減し、リアルタイムでのデータ処理が可能になります。
実際にどのように運用していくべきかのアプローチの例を示します。
- 自動化のためのプロビジョニングルール
- audit trailとセキュリティログの重要性
自動化のためのプロビジョニングルール
ユーザープロビジョニングを自動化させるためには、事前に明確なルール設計が必要です。
- 組織のセキュリティ基準
- 役職や職務に応じたアクセス権の配分
- ユーザーアカウントのライフサイクル管理
効果的なプロビジョニングのためには、まずは上記のような方針を定め、概念をシステムに組み込むための社内調整が必要となります。
audit trailとセキュリティログの重要性
audit trail(オーディットトレイル)とは監査証跡のことで、処理内容等のデータや時系列の操作記録が見られるシステムです。セキュリティログとは、セキュリティ管理や対策に関する記録です。
自動化されたユーザープロビジョニングでは、操作の透明性を保つために、audit trailやセキュリティログの維持が極めて重要です。すべての変更履歴を詳細に記録しておくと、権限の不正使用やシステム内の障害原因の追跡が可能になります。
ユーザープロビジョニングの具体的な導入例について
ここからは更に、アカウント管理の効率化とセキュリティ強化を両立させる方法について深堀りしていきます。
ユーザープロビジョニングを実現する上で役に立つ具体的な技術として、以下のような方法があります。
- SSO(シングルサインオン)の導入
- SCIMによるユーザープロビジョニング
- ユーザープロビジョニングと認証システム
これらについて紹介していきます。
SSO(シングルサインオン)の導入
SSO(シングルサインオン)は、一度の認証で複数のサービスにアクセス可能にする機能です。SSOを導入することにより、ユーザーは複数の認証情報を覚える必要がなくなります。Google アカウントやFacebook、X(Twitter)でも導入されているもので、身近なユーザープロビジョニングの一例であるといえるでしょう。
利便性が向上するだけでなく、パスワードの不正利用リスクを減少させる効果も期待できます。パスワードを忘れて再発行するなどの無駄な工数の省略にも繋がります。
SCIMによるユーザープロビジョニング
SCIMは「System for Cross-domain Identity Management」の略称であり、「スキム」と読みます。これは複数のドメイン間でユーザーID情報のやり取りを自動化するために作られた規格です。
複数のクラウドサービスをまたいで、ユーザー情報を統一されたひとつのフォーマットで管理することにより、社員情報の一元管理とデータの紐づけ管理を行いやすくします。
ユーザープロビジョニングと認証システム
ユーザープロビジョニングを実現するためには、ログインするための認証システムを正しく理解しなくてはいけません。ユーザー認証に基づいて、適切なアクセス権を付与することで、それ以外のユーザーはこれらのシステムに入れないようになります。
代表的な認証方法として「アダプティブ認証」と「マルチファクター認証」を理解しておきましょう。
アダプティブ認証
アダプティブ認証とは、リスクベース認証とも呼ばれます。利用者がいつもと異なる行動をとった場合にのみ、追加の認証を要求する認証方法です。
これをプロビジョニングに組み込むことで、リスクに応じたセキュリティ対策を講じながら、ユーザーの負担を減らせるというメリットがあります。
マルチファクター認証
マルチファクター認証(MFA)とは英語では「Multi-Factor Authentication」と表現し、「多要素認証」という意味があります。パスワードに加えて1つの要素、もしくはパスワードの代わりに2つの認証要素を提供する検証です。本人のみが知っている物や特徴で、確実に本人であると判断する方法です。
マルチファクター認証をプロビジョニングプロセスに組み込むことで、より精度の高いセキュリティを保持できるようになります。
身近なマルチファクター認証
マルチファクター認証といわれると、難しい言葉のように感じるかもしれませんが、実は身近なシステムでもあります。
マルチファクター認証には、大きく3つの要素があります。
- 知識要素
- 所有要素
- 生体要素
知識要素とは、IDやパスワード、PINコードや暗証番号などを用いた認証方法です。普段スマホのロックを解除する際には、この認証方法を利用している方も多いでしょう。
所有要素とは、その人の所有する物に付随する情報を用いた認証方法です。スマホのSMS認証やアプリ認証、ワンタイムパスワード等が挙げられます。
生体要素とは、顔や指紋、声紋や静脈といった、その人の身体的な特徴を用いた認証方法です。
退職者発生時のアカウント消去とコンプライアンスについて
ユーザープロビジョニングには、退職者のアカウント消去も含まれます。
退職者のアカウント消去は、セキュリティリスクを減らし、コンプライアンスに対応するための重要な手続きです。この過程は、企業内のデータやシステムが不正アクセスリスクから保護されるために、厳密に管理されなければなりません。
以下を意識して、運用強化を図ってください。
- オフボーディングプロセスの高度化
- コンプライアンス要求に基づいたアカウント監査
オフボーディングプロセスの高度化
オフボーディングとは、異動や退職などで組織を離れる際のプロセスを指します。退職者のアカウント消去を円滑に進行させるためには、オフボーディングの自動化と高度化が重要です。
ユーザープロビジョニングを自動化させれば、アカウント消去の漏れや遅延を防ぎ、セキュリティ対策を強化することが可能になります。
コンプライアンス要求に基づいたアカウント監査
退職者のアカウント消去は、単にアクセス権を削除するだけでなく、コンプライアンスや企業ポリシーに従ったアカウント監査が必要です。定期的に未消去のアカウントや不適切なアクセス許可を確認して適宜対応してください。
ユーザープロビジョニングを活用する
自動化されたプロビジョニングは、企業の権限管理を効率化し、管理者の負担を軽減させてくれます。ユーザープロビジョニングを活用し、企業の運用効率を飛躍的に向上させていくためのポイントには以下の3つがあります。
- プロビジョニングポリシーの設計
- 幅広い権限管理と監視体制の確立
- ユーザーエクスペリエンスを意識したプロビジョニング
プロビジョニングポリシーの設計
さまざまなクラウドサービスを統合してプロビジョニングする際には、導入前に各サービスごとに適切なプロビジョニングポリシーを設計しなくてはいけません。日々の業務を行う従業員の意向に合わせたプロビジョニングポリシーを意識しましょう。
サービスごとの特性や利用状況に合わせた方針を構築し、正しい方向性でユーザープロビジョニングが導入できれば、セキュリティを損なわずにプロビジョニングプロセスを効率化できます。
適切な権限管理と監視体制の確立
監視体制を導入すると、許可されていないアクセスや異常な行動パターンを即座に検知できます。リアルタイムでの対応が可能となり、トラブルを未然に防げるようになります。
権限管理を適切に行っていたとしても、例えば退職時のアカウント消去がされていないというような場合に役に立つでしょう。権限管理を効率化させるためには、権限管理と監視体制の双方を意識していくべきであるといえます。
ユーザーエクスペリエンスを重視したプロビジョニング
スムーズにアクセスできる動作環境は、ユーザーエクスペリエンス(体験)において非常に重要です。「使いやすい」「導入してよかった」と、1人1人が実感できるようなユーザープロビジョニングの導入を意識してみてください。
ユーザーにとってのリアクションがよいインターフェイスを意識することで、運用の手間やトラブルが減少しやすくなります。
ユーザープロビジョニングは、従業員が快適に業務を行う上で非常に重要な考え方です。
アカウント管理だけでなく、セキュリティの確保、コンプライアンス向上も図ることができるため、企業責任の大きい上場企業やそれに準ずる企業は導入と適切な運用が必須といえるでしょう。
自社に適した戦略を立てて、ビジネスの効率化とセキュリティ強化を図るためユーザープロビジョニングに関しての知識を深めていきたいですね。