ひとり情シスの課題とは?背景や現状を打破する対策まで解説
ひとり情シスとは、情報システム部門の業務を1人で行っている状態です。
情シスは企業のIT関連の業務の大部分を担っているためリソースを割くべき部門のはずですが、ひとりで業務を行っている企業が多々あります。
ひとり情シスの課題や、なぜひとり情シスという状況に陥ってしまうのかという背景、ひとり情シスを打破するための対策についてまとめました。ひとり情シスの課題がわかると、「なぜこのままではいけないのか」という理由がわかってきます。
セキュリティ事故が起き、企業としての信用を失ってから後悔しても遅いです。今すぐひとり情シスの状況を理解し、できる対策をとっていきましょう。
ひとり情シスとは
もともと「情シス」は企業の「情報システム部門」の略であり、IT戦略設計やIT機器の手配・管理、システムの開発・運用保守などを担う部署です。
ひとり情シスとは、この情シスを1人で担当している状態を指します。ひとり情シスと似た言葉では、「ソロ情シス」「ゼロ情シス」という表現もあります。ソロ情シスはひとり情シスに近しい意味ですが、ゼロ情シスは情シス専任の担当がいない状況を指します。
企業規模が小さく従業員が少ない、人材不足に悩んでいる企業だと、こういった状況に陥りやすくなります。
ひとり情シスの課題
ひとり情シスの企業では、情シスで以下のような課題を抱えていると考えられます。
- 業務の負担が大きい
- トラブル対応に時間がかかる
- 情シス業務が属人化してしまう
- セキュリティ対応まで手が回らない
- IT戦略を進められない
- スキルアップできない
- 相談相手がおらず孤立する
- 休職・離職してしまう
業務の負担が大きい
情シスはITにまつわる多くの業務を担当しています。PCなどのIT機器に関するヘルプデスク業務やトラブル対応といった業務も情シスの担当なので、ひとり情シスでは負担が大きくなってしまいます。
ほかの業務に手が回らなくなるのは、企業にとってもリスクとなるはずです。
また情シス担当者が他の業務も兼任している場合は、そちらの業務にも支障が生じるようになるでしょう。
トラブル対応に時間がかかる
常に多くの業務を抱えているひとり情シス状態では、トラブル対応といった不足の事態が降りかかると対処に時間がかかってしまいます。
基本的には重要性の高いものから対処していきますので、小さなトラブルは後回しになりがちです。それが後々大きな事故を招いてしまったり、社員の業務を止めてしまったりする可能性もあります。
情シス業務が属人化してしまう
ひとり情シスのように少人数で業務を行っている場合は、情シス業務の属人化が懸念されます。属人化してしまうと、「担当者が休んだだけで業務が回らない」「トラブルに対応できる人材がいなくなってしまう」という問題があります。
また離職の際には引継ぎの問題もあります。後任者に情報共有やノウハウの蓄積がされていないと、情シス業務自体が滞ってしまう可能性があります。
セキュリティ対応まで手が回らない
ひとり情シスだと通常業務で負担が大きくなり、昨今求められるセキュリティ対応まで手が回らなくなってしまいます。ウイルス感染や不正アクセス、情報漏えいといった企業の基盤を揺るがすリスクも考えられますので、セキュリティ対応の有無は企業の信用問題にも関わってきます。
また、ひとり情シスだと、最新のセキュリティ知識を身に着ける機会も限られてしまうかもしれません。
IT戦略を進められない
情シスは、システムの運用・保守管理やセキュリティ対応だけでなく、IT戦略設計も大切な業務のひとつです。しかし、ひとり情シスだと日々の業務で手がいっぱいになり、IT戦略に割くリソースがなくなってしまいます。
近年は政府が先導してDXを推進していますので、どの企業にとってもIT戦略は生き残りをかけた取り組みになるといっても過言ではありません。ひとり情シスのまま対策を打たずにいると、企業の成長が鈍化してしまう可能性もあります。
スキルアップできない
情シスにまつわる業務は、常に最新の知識・スキルを要求されます。しかし、時間がなくてはスキルアップは期待できません。
せめて先輩社員がいれば技術を教えてもらう、アドバイスをもらう、という働き方ができますが、ひとり情シスではその機会も与えられません。
相談相手がおらず孤立する
ひとり情シスだと、先輩はもちろん後輩もいません。たとえばトラブルが起きたとしても、ひとりで対応しなければいけません。
知見のない内容だと、自分で調べて対処していく必要がありますが、ひとりでは手詰まり感や焦りを感じるという人も少なくないでしょう。
そんななかで相談相手もいないと、ますます孤独感を感じてしまいます。
休職・離職してしまう
ひとり情シスでは多くの業務をたった1人で抱えこみ、相談相手もいないという状態に陥りがちです。肉体的な疲労はもちろん、精神的にも大きな負担となり、休職や離職を決断してしまう人が少なくありません。
一方で、休職・離職したくてもできない、といったこともあり得ます。ひとり情シスでは業務が属人化してしまっていますので、引継ぎが大きな負担になり、がんじがらめになってしまっているためです。
ひとり情シスが起きる背景
なぜひとり情シスが増えてしまうのか、その背景を考えてみましょう。
- スキル不足と人材不足
- 情シスへの理解不足
- クラウドサービスの進化
人材不足とスキル不足
IT分野は業界全体で人手不足が叫ばれています。人材の流動化や少子化により、今後はますます人材が不足していくと予測できます。
情シスは専門的な知識・技術が必要であり、人が足りないから誰でも良いという部署ではありません。適切なスキルを持った優秀な人材を確保するのが困難な状況であり、ひとり情シスやゼロ情シスにならざるを得ないといったケースが増加しています。
情シスへの理解不足
情シスは社内システムやITインフラの運用を担っていますが、直接的に企業の利益を生み出す部署ではありません。そのため経営層から十分に理解されず、人材採用や育成に力を入れてもらえないというケースがあります。
IT技術は日々高度化・複雑化していますが、経営層の認識がアップデートされていないと「情シスはひとりでできる業務である」と誤解されたままになってしまいます。
クラウドサービスの進化
近年はクラウドサービスを活用する企業がますます増えてきています。クラウドサービスに移行すると、サーバーの運用管理など従来自社内で行っていた業務をベンダーに任せられるようになります。
しかし、だからといって情シスの業務が減ったわけではありません。クラウドサービスの利用が増えれば、アクセス制御や多層化するID・パスワードの管理などの別の業務も増えます。自社開発でない分、それぞれのクラウドサービスへの理解や、日々行われるアップデートへのキャッチアップも必要です。
クラウドサービスは社員の業務を効率化しますが、情シス業務を効率化してくれるとは限りません。そのあたりの理解がない場合、人員が削減されてしまうケースもあります。
ひとり情シスの対策
ひとり情シスとなってしまっている企業では、どういった対策をとっていけば情シスの負担を軽減できるのでしょうか。
以下のような解決策がありますので、情シスだけでなく企業全体で取り組んでいきましょう。
- 情シス業務範囲の明確化
- 社内マニュアルでカバーする
- 社員のITリテラシーを向上させる
- 情シス担当者を育成する
- アウトソーシングを検討する
- 自動化ツールを導入する
情シス業務範囲の明確化
情シスの負担が大きくなってしまっているのであれば、まずは業務範囲をはっきりさせる所から始めましょう。
コア業務とノンコア業務に分けて、本来情シスで取り組むべき業務を誰もがわかるよう明確にします。例えば社内のヘルプデスク業務やIT機器のキッティングは、ノンコア業務と仕分けられます。一方、システムの企画立案やIT戦略設計は、コア業務と仕分けられます。
コア業務に注力できるよう、ノンコア業務にどう対応していくべきかを考えてみましょう。
社内マニュアルでカバーする
情シスの業務範囲としてノンコア業務と仕分けられた内容は、社内マニュアルやFAQの作成でカバーできるものもあります。IT機器の使い方や初歩的なトラブル対応などです。
マニュアルやFAQを見れば自身で解決できるという状況にしておけば、毎回情シスに相談する必要がなくなります。社員は自分で解決する力がつくと、自分で調べるクセがつきますので、全体的な作業効率化が期待できます。
社員のITリテラシーを向上させる
社内全体のITリテラシーの底上げも重要な課題です。
ITリテラシーが低い状態だと、セキュリティ事故を起こしたり、トラブルを起こす原因となってしまうためです。また、ITツールを活用できなければ業務が滞ってしまうという問題もあります。
ITリテラシーの向上は、情シスの負担軽減だけでなく、業務の生産性向上にもつながります。
情シス担当者を育成する
可能であれば情シス担当者を増やしましょう。新たにITスキルの高い優秀な人材を採用できれば申し分ありませんが、人材不足や採用コストがネックとなります。
そんな時は、社内の人材を育成していくという方法もあります。ITスキルのある社員を探し、社内OJTや社外研修でスキルアップを目指します。
1人の社員にスキルアップするよう負担をかけるのではなく、マニュアル作成やITリテラシーの向上など、社員全体で取り組んでいくといいでしょう。
アウトソーシングを検討する
「社内での人材育成は難しい」「時間がかかりそう」という理由で目途が立たないようであれば、アウトソーシングを検討するのも方法のひとつです。
人材育成や新規雇用よりも、アウトソーシングの方が費用を抑えられる場合もあります。どの業務をアウトソーシングするのか、現状の課題と照らし合わせながら委託先を探していきましょう。
自動化ツールを導入する
情シスの業務を圧迫する定型業務に、自動化ツールを活用すると情シスの負担が軽減されます。
- チャットボット
- FAQツール
- RPAツール
- クラウドストレージ
どの自動化ツールを導入すべきかは、情シスの状況により判断します。情シスが直接対応しなければならない業務を減らしていけるよう、自動化ツールで業務の効率化を狙います。
ひとり情シスのメリットはあるのか
ひとり情シスには以下のようなメリットもあると考えられます。
- 1人の方がスムーズに作業ができる
- 人件費を抑えられる
複数人のチームで動いている場合は、仕事の進捗状況の認識のズレから、噛み合わなくなってしまうというケースもあります。1人のほうがスムーズに業務を行えるという人もいるでしょう。
また、当然ですが人件費は抑えられます。これは企業としてはメリットかもしれません。
逆に言えば、先に解説したデメリットに対してメリットはこの程度なので、可能な限りひとり情シス状態は早急に改善すべきです。
情シスは業界として人材不足が課題となっていますので、新たに採用をするのは難しいかもしれません。
しかし情シスの抱えている問題を解決する方法はあります。社内で情シスの業務内容を理解し、周囲がカバーできる部分がないか考えてみましょう。マニュアルやFAQを作成する、アウトソーシングや自動化ツールを導入するなども解決策となり得ます。
情シス内だけで解決できる問題ではありませんので、経営層の理解を得て、企業として情シスの環境改善に取り組んでいきましょう。