IPv6・IPv4とは?違いや移行する際の注意点も紹介
IPv4アドレスの枯渇が叫ばれ、IPv6が産声を上げて久しいですが、現在はどういった状況なのでしょうか。実はIPv4アドレスは思いのほかまだ現役で使われており、IPv6へ完全移行する未来はもう少し先かもしれません。さて、今回はIPv4とIPv6の違いや、移行を行う際の注意点もご紹介します。
そもそもインターネットプロトコルとは
IPv4やIPv6を語る前に、そもそも通信プロトコルやIPとは何なのかを説明させてください。
通信プロトコルとは、コンピューター同士が通信をする際の手順や規格のことです。これが共通の約束事となることで、異なるデバイスやコンピューターシステム、ソフトウェアなどが互いに正確に通信できるようになります。
例えば、世界には母国語の他に共通語として英語が存在しますね。世界共通の約束事として英語を共通語にしているからこそ、外国の人同士で意思疎通ができています。ドイツ人と韓国人がひたすら自分の母国語で話しかけてもスムーズなやりとりは成り立ちません。このように、様々な異なる者(物)同士のやりとりを円滑に進めるには共通の約束事が必要であり、通信の世界においてはこの約束事が通信プロトコルなのです。
そして、インターネット通信に関する約束事を定義したプロトコルのひとつが「IP(Internet Protocol)=インターネットプロトコル」です。正確にはIPはそれ単体で機能するのではなく、数多く存在する通信プロトコルの一つに過ぎません。しかし、通信をする上で核となるのがIPとTCPという2つのプロトコルである為、通信プロトコルは得てしてTCP/IPと称されます。本記事では、IPv4とIPv6の違いをご紹介しますので、TCPはまたの機会とし、IPについて深く掘り下げていきます。
IPアドレスとは
IP(Internet Protocol)が定めるルールのうち、メインとなるのがIPアドレスです。IPアドレスとは、インターネットやそのネットワーク上にあるPCやサーバなど(以下、ホストと言います※)に割り当てられる識別番号です。人間社会で言うところの住所と同じ役割を担っていて、通信を行う際のアクセス元ホストとアクセス先ホストを特定するのに使われます。尚、同一ネットワーク内ではユニークな番号である必要があります。(自分の住所が唯一無二でないと、自分宛の郵便物が正確に自宅に届かないですからね)。
※ホストとは...IPアドレスが付けられていて経路制御を行わない機器のことを指します。
IPアドレスには、インターネットという世界規模のネットワーク内でユニークであるグローバルIPアドレスと、社内ネットワークなどのLAN(ローカルネットワーク)内でユニークとなるプライベートIPアドレスがあります(ローカルIPアドレスとも呼ばれます)。
グローバルIPアドレスは「ICANN」という非営利法人が全世界分を管理しており、その配下に地域インターネットレジストリという組織があります。
地域ごとに階層的に管理することによって、ユニークなIPアドレスを利用できるようになっています。日本はアジア太平洋地域を受け持つAPNICに属する形となり、日本に割り当てられたグローバルIPアドレスを管理するのがJPNICという組織です。そしてJPNICからIPアドレスを割り当てて貰えるのが、管理指定事業者として締結できたプロバイダー事業者(Internet Sevice Provider=ISP)です。コンシューマーユーザーや企業などのエンドユーザーは、このプロバイダー事業者と契約をすることでグローバルIPアドレスを固定で付与してもらえるのです。グローバルIPアドレスはインターネット上に公開される” 住所 ”なので、世界中の誰もがそこにアクセスしに来ることができます。
対してプライベートIPアドレスは、インターネット上へ公開しているものではなく、LAN内に向けて公開する” 住所 ”です。自宅や学校、会社など、そのネットワーク内でのみユニークな識別番号であれば良いというのが特徴です。ホテルの部屋番号や、学校の教室名をイメージすると分かりやすいかもしれません。プライベートIPアドレスはプロバイダー契約によって提供されるものではなく、ネットワーク管理者が自由に各ホストへ設定する事が出来ます。
IPv6とは?
IPv6とは、「インターネットプロトコル第6版(Internet Protocol version 6)」の略称です。スマホやIoTが爆発的に普及しインターネット需要が全世界で急増したため、割り当てられるIPv4のグローバルIPアドレスの枯渇が懸念されるようになり、それに代わるものとしてIPv6が誕生しました。「IPv5はどこにいったの?」と疑問に思われる方もいると思いますが、IPv5は試験的且つIPv4の置き換えとは異なる目的で開発されたため、標準化されることはありませんでした。
IPv6アドレスは8ブロックから成り、それぞれ4桁の英数字を割り振る事で構成され、全部で約43億の4乗=約340澗(かん)通り生成する事が出来ます。ほぼ無限に生成し続けられると言っても過言ではありません。
IPv6(例):1234:0db8:0000:0000:0000:0000:0000:0001(43億の4乗通り)
IPv6のメリット
IPv6のメリットはなんといっても通信速度の向上です。厳密には「IPv6=通信速度が早い」という訳ではないのですが、IPv6とセットで使われる通信方式が速度の向上を実現させています。この辺りは後ほど詳しく解説します。IPSecという通信の盗聴や改ざんを防ぐ技術が標準で組み込まれていることで、セキュリティが強化されている点もメリットと言えるでしょう。
IPv6のデメリット
IPv6はIPv4とは異なる通信規格のため、互換性がないのがデメリットです。機器やWEBサイトなどがIPv6に対応できていないと、通信が上手くいかなくなってしまいます。
ただ、このデメリットは現在「IPv4 over IPv6」という技術で対応が出来ています。
IPv4とは?
IPv4とは、一般用途としてはIPv6の前段にあたる「インターネットプロトコル第4版(Internet Protocol version 4)」の略称です。IPv6が一般に出回り始めているとはいえ、現在最も広く普及しているのはIPv4となります。完全に入れ替わるのはまだまだ先と言われており、暫くはIPv4が現役といえるでしょう。IPv4アドレスは、4つのブロックで成り立ち、それぞれ0〜255までの256個の数字を割り振ることで構成され、全部で約43億通り生成する事が出来ます。
IPv4(例):255.255.10.1(約43億通り)
IPv6とIPv4の違いとは?
IPアドレスの数や割り当て
IPv4とIPv6ではアドレスの在庫数が全く違います。IPv4で約43億しかなかったIPアドレスが、IPv6の登場により無限に近い量になりました。
また、コンシューマーユーザー等が自宅のインターネット環境をIPv6対応とする場合、ホストに付与されるIPv6アドレスはMACアドレス※をベースに自動設定されるため、利用者はIPv6アドレスの設計や設定が基本的には不要です。また、潤沢なアドレス空間を持つことにより、家電類も含め様々な機器がIPv6アドレスを使えるようになります。
※MACアドレスとは...各端末・機器に割り当てられる固有の識別番号。メーカーを特定するベンダー識別子部分とメーカー内で管理される製造番号部分で構成されることで世界で唯一の固有の識別番号となっている。
表記方法の違い
IPv4とIPv6はビット数※が異なり、IPアドレスの長さも違うので、ユーザーにわかりやすいIPアドレスの表示にするために表記方法が変えられています。
IPv4では32ビットのIPアドレスを8ビットごとに区切り、10進数に変換して表記します。一方IPv6では128ビットのIPアドレスを16ビットごとに区切り、16進数で表記します。
※ビット(bit)…「情報の世界最小単位」のことで、1か0を格納する箱。1byte=8bitとなる。
対応設備の違い
IPv6での運用にシフトするにはIPv6対応の設備(機器やネットワーク等)を用意しないといけません。
LAN内の設備環境もそうですがインターネットにつなぐ為のプロバイダー契約もIPv6対応である必要がありますし、自社環境だけではなく、インターネット経由でアクセスする先のWEBサイトなどもIPv6対応でなければいけません。例えばGoogleやFacebook、YouTubeはIPv6対応となっていますが、Yahoo! JapanやTwitterは非対応である等、有名企業のサイトであってもIPv6対応率は20%以下となっています(WEB検索すると、特定のサイトがIPv6対応サイトかどうかを調べる方法が掲載されています)。IPv6に完全に移行するためには、インターネットにまつわる世界中の設備がIPv6対応となる必要があります。そう聞くとIPv6の活用は難しいように思えますが、近年は「IPv6 PPPoE」という接続方式や「IPv4 over IPv6」という技術がそれを可能にしています。この辺りはもう少し詳しい説明を後述します。
互換性について
前述していますが、IPv6を利用する為にはIPv6対応の機器やネットワークを用意する必要があります。IPv4アドレスを割り当てられた機器とIPv6アドレスを割り当てられた機器はそのままでは互いに通信できません。つまり自社のネットワークや社外向けに公開しているWEBサイトをIPv6に切り替えたとしても、そのWEBサイトにアクセスしにくるユーザーがIPv4を利用していた場合、そのままではWEBサイトは閲覧出来ません。
接続方式(PPPoEとIPoE)の違い
一般的には「IPv4=PPPoE」「IPv6=IPoE」という対応で考えられています。但し、IPv6 PPPoE接続に対応した機器を導入すればPPPoEでもIPv6のWEBサイトが見られたり、IPv4 over IPv6という技術を用いればIPoEでもIPv4のWEBサイトに接続することが可能となります。
PPPoE接続方式とは、電話回線を利用した「PPP(Point-to-Point Protocol)」というルールをイーサネットへ応用した接続方式です。インターネットの歴史で言うと、PPPは電話回線を使ってインターネットにアクセスしていた初期の時代に用いられていたプロトコルとなります。その後、インターネット通信技術の発達でADSLなどの高速インターネット回線が登場するも、ADSLを利用するときにはPCとADSLモデム間をイーサネットで接続する必要がありました。これを解決するために作られたのが「PPPoE(PPP over Ethernet)」という接続方式です。
具体的なインターネットへの接続方法ですが、契約ユーザー宅からNTTフレッツ網(地域IP網)に接続します。その後、NTTフレッツ網からプロバイダー事業者網に乗り入れる際に、プロバイダー網内に用意されている網終端装置(POI)でPPPoE認証を通過するという手順でインターネットに繋がります。近年はこの網終端装置がボトルネックとなり、通信が遅くなる「輻輳」という事象が多発しています。
一方、IPoE接続方式は光ファイバーが大衆化した後に出てきた接続方式です。イーサネットの利用を前提として作られている為、インターネットへの接続方法も、契約ユーザー宅からNTTのNGN網(次世代ネットワーク)に接続した後にプロバイダー事業者網と直接接続してインターネットへ抜けることが可能です。PPPoEでボトルネックとなっていた網終端装置を経由せず、設備もゆとりをもった設計になっているため、安定した通信や速度の向上が期待できます。
回線速度の違い
「IPv4よりIPv6の方が速い」と思われがちですが、IPv6にすることで回線速度が速くなるという直接的な因果関係はありません。本来であれば「PPPoEよりIPoEの方が速い」という考え方が好ましいのですが、IPoEがIPv4に対応していないために「IPv4=PPPoE」「IPv6=IPoE」という理解が一般的になり、次第に「IPv4よりIPv6の方が速い」と解釈されるようになったのだと思います。
便宜上「IPv4=PPPoE」「IPv6=IPoE」と考えると、IPv6はIPv4より通信は速くなると言えるでしょう。前述の通り、IPoE接続はインターネットに抜けるまでの工程でボトルネックになりがちな網終端装置(POI)を通らなくてよいためです。
しかし、実は「IPv6 PPPoE」という接続方式も存在します。従来のPPPoE接続でもIPv6のグローバルIPアドレスが割り当てられるという仕組みです。これによってIPv6対応のWEBサイトやサービスの利用が可能となりますが、IPoEではないため通信速度の向上は期待できません。そう考えると、「IPv4よりIPv6の方が速い」という理解は誤りであることが分かると思います。
IPv4 over IPv6とは
通信速度の向上を図るのであれば「IPv6 IPoE」接続を採用すればよいはずですが、それではIPv6未対応のWEBサイトはすべて利用できなくなってしまいます。では、IPv4のWEBサイトにも接続できる「IPv6 PPPoE」を採用すれば良いのかと考えると、今後は速度の向上が見込めなくなってしまいます。そんな問題を解決するのが「IPv4 over IPv6」という技術です。
IPv4 over IPv6は、原則IPv6 IPoE接続ですがIPv4のWEBサイトやサービスも利用できるような仕組みになっています。IPv4 over IPv6接続では、IPv4のパケットはIPv6パケットの中にカプセル化され、IPv6に見せかけて通信し、接続先のWEBサイトに届く手前でIPv4に再変換されます。
これにより、IPoE接続で通信の高速化を図りつつ、IPv4環境へのアクセスも可能にしています。
注意点としては、プロバイダーとルーターがIPv4 over IPv6に対応している必要があるということです。
PPPoE方式のインターネット環境に高速通信は期待できませんので、これからインターネット契約をするのなら、IPv4 over IPv6 でIPoE方式の契約がお薦めです。
自宅・自社の回線がIPv6とIPv4のどちらか確認する方法
IPv4とIPv6の違いについて学びましたが、「そういえば今自分が使っている回線はどっちなんだ?」と思われた方もいるかもしれませんね。実はブラウザ上で簡単に確認する事が出来ます。検索サイトで「IPv6接続テスト」などのキーワードで検索するとIPv6に対応しているか確認できるサイトが出てくると思います
(https://test-ipv6.com/index.html.ja_JP 等々)。
IPv6移行の注意点
IPv6への移行を検討する際の注意点を解説します。
IPv6を提供しているプロバイダーを選ぼう
IPoE対応のプランをもっていて、且つIPv6接続オプションもあるプロバイダー事業者と契約をしましょう。また、世の中がIPv6に完全移行するまではIPv4 over IPv6のオプションは必須と考えていいと思います。近年はサービス名を「IPoE」ではなく「IPv4 over IPv6」としている事業者も多いため、そういったものを契約するのが安心でしょう。
IPv6に対応したルーターを用意しよう
ルーター自体もIPv6に対応している必要があります。基本的にはプロバイダーからルーターを借りるケースが多いと思いますが、自身でルーターを用意する際にはIPv6対応の機種を採用しましょう。
IPv4のグローバルIPアドレスが枯渇すると言われて久しいですが、少しづつIPv6の世の中になりつつあります。日本国内でやりとりされるデータトラフィック量が爆発的に増えている事も相まって、PPPoE接続からIPoE接続に移行する企業やコンシューマーユーザーも少なくないため、併せてしっかりと理解しておきたいですね。また、PPPoE接続やIPoE接続というのはNTT東西のフレッツ光というサービスに特化した話です(フレッツ光の光コラボサービスも含みます)。フレッツ光以外のサービスであれば、世の中には最寄りの局舎から契約ユーザー宅内までイーサネットで接続させるサービスもありますので、「通信の高速化」が目的でIPoEへの切替を検討されている情シスの方は、是非そういった選択肢にも視野を広げてみていただきたいです。