SOARとは?セキュリティ運用の自動化によるメリットや事例を徹底解説
サイバー攻撃を検出し、分析や対処する過程には、様々な作業が必要です。従来のように手作業で調査し対策を講じる運営方法は限界に近付いています。IT社会である現代において、セキュリティ運用にかかるコストに頭を悩ませている方も多いでしょう。
SOARは、セキュリティ運用を自動化し、効率化を実現する技術です。人材不足が課題となっている昨今、導入すると大きなメリットがあります。
〈この記事を読んでわかる内容〉
- SOARとは何なのか
- SOARの導入を検討するべき事案
- SOARを導入するメリット
- SOARを導入する際の注意点
従来のセキュリティインシデント対応に限界を感じている方は、必見です。
SOARとはセキュリティ運用の自動化と効率化を実現する技術
「SOAR(Security Orchestration, Automation, and Response)」とは、米国を中心に発展を続けているセキュリティソリューションのことです。IT社会において重要なセキュリティ運用の自動化と効率化を実現する技術として、注目を集めています。以下の項目ごとに詳しく見ていきましょう。
- SOARの概念
- SOARとXDRの関係
- SOARとSIEMとの違い
SOARの概念
SOARは、セキュリティ運用の自動化と効率化を目指す先進的な技術です。主な目的は、セキュリティ関連の作業を自動化し、迅速かつ効率的な対応を可能にすることです。
具体的には、ベンダーがあらかじめ設定したルールや、ユーザーが定義したプレイブックに基づいて処理をします。想定された状況とそれに対する処理を自動で行うことで、セキュリティ運用を支援する仕組みです。インシデント対応の時間を短縮し、脅威に対する迅速な対応にも期待できます。
SOARでは、複数のセキュリティツールからのアラートを一元管理し、それらを分析、整理するプロセスの自動化が可能です。セキュリティ担当者は繰り返し発生する低レベルのタスクから解放され、より重要な戦略的な業務に集中できるでしょう。
SOARとXDRの関係
SOARと「XDR(Extended Detection and Response)」は、セキュリティ運用において互いに補完関係にあります。
XDRは複数のセキュリティ製品からのデータを統合し、脅威検出と対応を強化する技術です。サイバー攻撃の事後対処として、脅威がユーザー環境に侵入した際に、攻撃の痕跡を検知・可視化することでインシデントの調査や対処を行います。真に対応が必要なアラートのみを抽出することが可能です。
一方、SOARはXDRからの情報を活用し、アラートの管理、対応プロセスの自動化、効率化を図ります。XDRが提供する豊富なデータをSOARが活用することで、より迅速かつ効果的に脅威へ対処が可能です。
SOARはXDRによって検出された脅威に対する具体的な対応策を自動化し、セキュリティ運用の効率を大幅に向上させます。
SOARとSIEMとの違い
SOARと「SIEM(Security Information and Event Management)」とともに導入されます。しかし実際は、セキュリティ運用において異なる役割を果たす点を覚えておきましょう。
SIEMはセキュリティ関連のデータを収集、分析し、アラートを生成することに重点を置いています。脅威をリアルタイムで特定できる管理システムです。セキュリティ上の問題を早期に検出できます。
対してSOARは、アラートに基づいて対応プロセスを自動化することに焦点を当てています。SIEMが「何が起こっているか」を教えてくれるのに対し、SOARは「それにどう対処するか」を効率化するためのツールなのです。
SOARはSIEMによって提供される情報を基に、セキュリティ運用の自動化と効率化を行います。セキュリティチームがより戦略的な業務に集中できる環境を提供してくれるでしょう。
SOARが注目されている背景
SOARが大きく注目されているのには理由があります。特に以下の背景は重要です。
- 業務環境の変化
- サイバー攻撃の多様化
- セキュリティ人材の不足
業務環境の変化
SOARが注目される理由の1つに、業務環境の変化があります。DXの進展により、企業のIT環境は以前にも増して複雑化しています。リモートワークの普及やクラウドサービスの利用拡大は、セキュリティ管理の難易度を高めているのです。情報処理推進機構 (IPA) が発表した「情報セキュリティ 10 大脅威 2023」では、「テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙った攻撃」が5位にランクインしています。
このような状況下で、従来の手作業によるセキュリティ対策では、迅速かつ効率的な対応が困難です。クラウド利用の増加によって、セキュリティ担当者の業務量も増えています。
SOARは、そうした課題に対応するために、セキュリティ運用を自動化し、効率化できるという点で、注目されているのです。
サイバー攻撃の多様化
サイバー攻撃の多様化も、SOARの重要性を高めている理由の1つです。攻撃手法は日々進化し、フィッシングやランサムウェア、ゼロデイ攻撃など、様々な形態で企業を脅かしています。
従来のセキュリティ対策では迅速な対応が難しい場合が多く、企業に甚大な損害をもたらす可能性があります。
SOARは発生したインシデントに対して、初動対応を自動化することが可能です。アラートの自動分析や対応策の迅速な実行により、様々な脅威へ効率的に対応できます。
セキュリティ人材の不足
セキュリティ人材の不足は、SOARの需要が高まっている要因の1つです。サイバーセキュリティの専門家は世界的に不足しています。日本も同じです。多くの企業が人材を確保するのに苦労しており、セキュリティ運用における負担が増大しています。
SOARは、人材不足を補うための解決策として期待されています。自動化により、限られた人員でも効率的にセキュリティ運用を行えるからです。その結果、セキュリティ人材は手作業でシステムを管理する必要が無くなり、より重要な業務に集中できます。
SOARは人材不足の問題を緩和し、セキュリティ運用の質を向上させることにも大きく貢献するでしょう。
SOAR導入を検討するべきセキュリティ事案の事例
SOARは、現代のセキュリティにおいて重要な技術です。導入するか迷っている方は、以下の事例を参考に検討してみてください。
- インシデントが頻発している
- 常に強固な情報管理を求められている
インシデントが頻発している
SOARの導入は、セキュリティインシデントが頻発している状況で特に重要です。サイバー攻撃の手法は日々進化し、企業は様々な脅威に晒されています。場合によっては、高度なフィッシング攻撃により従業員のアカウントが乗っ取られ、機密情報が漏えいする事態が発生する可能性もあるでしょう。
SOARを導入すれば、そうしたインシデントにも迅速かつ効率的に対応できます。異常なアクセスパターンを自動で検出し、即座に対応措置を講じられるからです。被害の拡大を防ぎ、セキュリティの堅牢性を高められます。
常に強固な情報管理を求められている
SOARの導入は、常に強固な情報管理が求められる環境においても極めて重要です。特に、個人情報など機密情報を扱う以下のような機関では意識した方が良いでしょう。
- 金融期間
- 医療機関
金融や医療などの業界では、顧客の財務情報や患者の健康情報など、高度な機密性が要求されるデータを日常的に取り扱っています。セキュリティ対策の強化が不可欠と言えます。
SOARを活用すれば、機密情報を24時間365日監視し、不正アクセスやデータ漏洩の兆候を早期に検出することが可能です。情報漏えいのリスクを大幅に低減し、顧客や患者の信頼を維持できるでしょう。
SOARを導入するメリット4選
SOARを導入すると、以下のメリットがあります。
- インシデント対応を自動化できる
- セキュリティ運用の負担を軽減できる
- 同一プラットフォームによって情報を共有できる
- セキュリティ運用にかかる時間とコストを軽減できる
インシデント対応を自動化できる
SOARの導入による最大のメリットは、インシデント対応の自動化です。プレイブックにインシデントへの対応手順を登録すれば、初動対応を自動で実施してくれます。
セキュリティインシデントが発生した際には迅速な対応が必要です。しかし、手作業での処理は時間がかかります。インシデントごとに対応方法の検討をしていると、効率も良くありません。
SOARを導入すると、フィッシング攻撃を受けた際、自動的に関連するメールを隔離し、影響を受ける可能性のある他のシステムへの拡散を防ぎます。さらに、インシデントに関連する情報を自動収集し、迅速な解析と対応を行います。人手はかかりません。
こうした自動化により、インシデントへの迅速かつ効果的な対応が可能になります。セキュリティリスクを大幅に低減できるでしょう。
セキュリティ運用の負担を軽減できる
SOARの導入は、セキュリティ運用の負担を大幅に軽減します。多くのセキュリティ運用チームは、日々のルーティンワークに追われ、戦略的な業務に十分な時間を割けない状態です。
SOARによって日常的な作業を自動化すれば、より重要な業務に集中できるようになります。例えば、アラートの分類や初期対応などが自動化されると、チームの作業負担が軽減され、より戦略的なセキュリティ分析や計画に時間を割けます。
人材不足が叫ばれる中、セキュリティ運用の負担を軽減できるメリットは、非常に大きいと言えるでしょう。
同一プラットフォームによって情報を共有できる
SOARは、同一プラットフォーム上で情報を共有できます。情報の可視化ができるためです。
セキュリティチームが異なるツールを使用していると、情報の断片化が発生し、効率的な対応が困難になる可能性があります。SOARによって異なるセキュリティツールからの情報を一元化すれば、チーム全体で共有できます。関係者は、常に最新のセキュリティリスクを把握できるでしょう。
SOARによって情報の可視性が向上し、より迅速かつ効果的な意思決定が可能になります。対応内容は全てログとして記録されるため、セキュリティ運用において極めてメリットの大きい技術です。
セキュリティ運用にかかる時間とコストを軽減できる
SOARの導入は、セキュリティ運用にかかる時間とコストを軽減します。自動化により、繰り返し発生するタスクの処理時間が短縮されるからです。人的リソースを効率的に活用できるでしょう。
また、インシデント対応の迅速化により被害の拡大を防ぎ、結果としてのコスト削減にも期待できます。ランサムウェア攻撃の早期検出と対応により、復旧にかかるコストと時間を大幅に削減できるといった例が挙げられます。長期的な運用コストの削減にも期待できます。
SOARを導入する際に注意すべきポイント5選
SOARは導入メリットが大きい技術ですが、導入時に注意しておきたいポイントがあります。以下の5つです。
- 優先順位をつける
- 段階的に導入する
- プレイブックを作成する
- 運用担当者へ研修を実施する
- 現在使っているツールやアプリをリストアップする
優先順位をつける
SOAR導入時には、何を自動化するかの優先順位をつけましょう。全てのセキュリティ課題を一度に解決しようとすると、効果的な導入が困難になります。
おすすめは、最も影響が大きいと思われるインシデント対応の自動化から始めることです。段階的にシステムを改善し、全体のセキュリティ体制を強化できます。その際、すぐに導入しない予定でも、セキュリティ運用チーム全体の関係者を巻き込みましょう。現場の意見をヒアリングすることで、見えてくるものも多くあるためです。
優先順位を明確にしてSOARの導入効果を最大化し、リソースの無駄遣いを防いでください。
段階的に導入する
SOARの導入は、段階的に行いましょう。一気に全てを導入しようとすると、システムの複雑化や運用上の混乱を招く可能性があるためです。導入によって、新たなセキュリティの課題が見える可能性もあります。徐々に高度な機能を追加していくと良いでしょう。
システムの安定性を保ちながら、徐々に運用の効率化を図るよう意識してください。
プレイブックを作成する
SOAR導入の成功には、効果的なプレイブックの作成が不可欠です。プレイブックとは、セキュリティインシデント発生時の対応手順を定めたもののことです。具体的なインシデントの種類ごとに、どのように対応するかを明確にすることで、迅速かつ一貫した対応が可能です。
策定するプレイブックの優先順位を決める際は、チームが最も時間を割いている反復的なタスクに焦点を当てましょう。プレイブックを作成すると、SOARの効果を最大限に引き出せます。状況に応じてプレイブックを更新し続けていくのも忘れないようにしましょう。
運用担当者へ研修を実施する
SOARを効果的に運用するためには、担当者への研修が必要です。新しいシステムの導入は、運用チームにとって未知の業務です。研修を通じて、SOARの基本機能や操作方法、プレイブックに基づいた対応方法を理解させましょう。
適切な研修を実施してSOARを最大限に活用し、セキュリティ運用の効率化を図ります。さらに、ソフトウェアでは解決できない複雑なインシデントに対処できるような研修も必要です。
アラートに人間が必要になった場合に備えて、問題に対処できるノウハウと知識を身につけられる環境を整えておきましょう。
現在使っているツールやアプリをリストアップする
SOAR導入の前に、現在使用しているセキュリティツールやアプリをリストアップしましょう。
SOARは既存のシステムと連携して機能しますが、全ての製品やシステムに対応できるわけではありません。どのツールがSOARと互換性を持つかを把握する必要があります。各ツールがどれだけ効果をあげているのかも、あわせてチェックしておきましょう。
リストアップによりスムーズな統合が可能です。SOARの機能を最大限に活用し、セキュリティ運用の効率化をするためにも、現在使っているツールやアプリのリストアップは必ず実施してください。
SOARは、セキュリティ運用を自動化する仕組みです。業務環境の変化やサイバー攻撃の多様化、セキュリティ人材の不足といったセキュリティ運用の課題を解決する手段として、注目されています。
情報化社会である現代において、セキュリティ運用は重要です。セキュリティ運用に関して不安を覚えている方は、SOARの導入を検討してみることをおすすめします。